異種族の風〇をレビューする某アニメに倣って、僕が(全話)視聴したアニメの感想や評価を書いていく「アニメレビュアーズ」。
今回は、サンライズが90年代のラストに生み出したSFアニメ『無限のリヴァイアス』の感想・評価・レビューである。
2021年3月をもって「dアニメストア」での配信が終了すると知り、3日間で2クール全26話を視聴した。
そんな焦りながら堪能した『無限のリヴァイアス』に対する、僕なりの解釈と感想、そして評価を書いていこう。
『無限のリヴァイアス』作品情報
放送時期 | 1999年10月-2000年3月 |
話数 | 全26話 |
ジャンル | SF/群像劇 |
アニメーション制作 | サンライズ |
『無限のリヴァイアス』あらすじ・PV
2137年に起きた巨大な太陽フレア「ゲドゥルト・フェノメーン」によって発生したプラズマ雲は「ゲドゥルトの海」と呼ばれ人類の宇宙進出を阻む障壁となった。
2225年、温厚でこれといった取り柄のない相葉昴治(あいばこうじ)は自らを環境ごと変えるため、地球の衛星軌道上にある航宙士養成所「リーベ・デルタ」へと向かった。だが残念なことに幼馴染の鳳仙あおい(ほうせんあおい)も、因縁深い弟の祐希(ゆうき)も同じ学校に来てしまったため、完全に環境を変えるには至らなかったが、パートナーの尾瀬イクミ(おぜいくみ)やそのガールフレンドである和泉こずえ(いずみこずえ)など、仲間も出来てそれなりに楽しい生活を送っていた。
そんな中、リーベ・デルタは何者かの襲撃によって制御不能になり、ゲドゥルトの海へ突入してしまう。
教官たちは全員殉職し、リヴァイアスに避難できたのは少年少女487名。
なぜか彼らは、自分たちを救助してくれるはずの軌道保安庁から攻撃を受け、戸惑い、混乱しつつもこれと戦い続ける。閉鎖された極限状態にある艦内では、艦の指揮権や物資の配給を巡って、少年少女同士が陰惨な争いを繰り広げながら、火星圏から土星圏、天王星圏へと当てのない逃避行を続けていく...
『無限のリヴァイアス』スタッフ
企画:サンライズ
原案:矢立肇
監督:谷口悟朗
シリーズ構成:黒田洋介
キャラクターデザイン:平井久司
メカニックデザイン:山根公利
スペシャルコンセプター:野崎透
サブメカニックデザイン:名倉正幸、齋藤久
色彩設計:歌川律子、佐々木順子
撮影監督:白井久男
編集:森田編集室
音楽:服部 克久、M.I.D.
音響監督:浦上靖夫音楽
プロデューサー:桜井 裕子
製作:TV TOKYO、読売広告社、サンライズ
『無限のリヴァイアス』キャスト(声優)
相葉昴治:白鳥哲
相葉祐希:保志総一朗
尾瀬イクミ:関智一
蓮仙あおい:桑島法子
和泉こずえ:丹下桜
ユイリィ・バハナ:氷上恭子
エアーズ・ブルー:檜山 修之
『無限のリヴァイアス』評価
評価項目 | 作画 | 演出 | 音楽 | 声優 | ストーリー | キャラ | 設定・世界観 | 雰囲気 | 面白さ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
点数 | 8 | 8 | 7 | 7 | 8 | 7 | 9 | 8 | 8 |
お気に入り度:★★★☆☆
オススメ度:★★★☆☆
リヴァイアスは小さな社会
487名の子供が宇宙上の閉鎖空間に閉じ込められた状態の航宙艦「リヴァイアス」は、僕ら人間が住む”社会”そのものだった。
たとえば、487名の子供のなかでも優秀かつ戦艦を操縦するツヴァイが、みんなをまとめ上げて先導し始めたのは”政権の誕生”だ。
ツヴァイの政治に対して一般生徒から「奴ら何様だよ」などと不満が膨れ上がる中、不良グループ「チーム・ブルー」がブリッジを暴力で占拠。
これは”テロリズム”であり、”政権交代”だ。「チーム・ブルー」による”専制政治”が始まる。
そして、作業量やランクに比例してポイントを発生させ、それを食事や物資と交換する「ポイント制」が導入される。これは艦隊修理の促進や食料の備蓄を考えたものであり、事件を起こした者はペナルティとしてポイントが引かれる。
社会主義と資本主義の狭間のような、新しい”政治”が行われるのだ。
しかし「チーム・ブルー」のトップであるブルーが裏切ったと分かると、一般生徒から批判が相次ぎ、それは暴動へと変化。
やがて「チーム・ブルー」政権は隅へと追いやられ、ツヴァイが「リヴァイアス」を仕切る政治へと戻る。”革命”である。
だが、守ると誓った恋人「こずえ」が暴行を受けたことを知った「イクミ」は、「チーム・ブルー」政権のほうが良かったと考え、リヴァイアスの大幅な戦力である「ヴァイタル・ガーダー」を占拠。
「事件が起きたらこれでリヴァイアスを攻撃する!普通に暮らす、それだけで良い!」と脅し、暴力沙汰は減って労働力は促進。
またしても”テロリズム”が起こり、武力による”圧政”が行われる。
明確な主権者が不在ゆえの不毛な争いや暴力が続いた結果、それを全力で阻止しようとした彼の行き着いた先だ。
…これが本作の「リヴァイアス」のなかにおける大まかな流れ。
「リヴァイアス」には社会的ヒエラルキーがあり、グループや対立が生まれる。
その社会のなかには、権力を握る者、権力者に従順になる者、皆をまとめ上げて先導するのが上手い者、戦略を考えるのが上手な者、ロボの操縦が優秀な者、合理的思考で動く者、感情的に動く者、欲望のままに動く者、行動力に長けている者、行動もせず批判だけする者、暴力を振るう者、真面目に大人しく生活する者...
本当に色んな特技や性格、思いや考え、過去や守るべきものを持つ、色んな人がいる。多様な人々が関わり合い、思いや考えが錯綜し、変化していく。
ただ一つ変わらない大きな共通点は「生きたい」という意志。
生き抜くために、協力したり、支配したり、裏切ったり、憎しみを抱いたり、いがみ合ったり...
人と人は分かり合えないが、人は人無しでは生きられないし、人は人との繋がりを求める。
そんな”人が形成する社会”を見事に描いていた。
『コードギアス』にも感じたことだが、谷口悟朗監督作品はリアルな社会をアニメで構築して見せるのが非常に巧みである。
キャラクターはアニメのキャラではなく、生の人間
極限状態における人間ドラマ
宇宙で約8ヶ月ものあいだ閉鎖空間に置かれた「リヴァイアス」の艦内は、絶対に助かるという保証や希望はなく、なぜかテロリストに仕立て上げられ攻撃を受けて、敵は次第に強くなり、食料の備蓄は少なくなり、軋轢が生まれる環境は変わらない...
いわば”極限状態”だ。だから人間の本性が現れる。
たとえば、ツヴァイが「ポイント制」による政治を行っている際、自分たちは労働に関係なくポイントがいくらでも使える”フリーポイントシステム”を導入。
これをいかがなものかと主人公が突いたときに、彼らは”フリーポイントシステム”を死守しようとした。
それから第25話、敵が「リヴァイアス」に乗り込んできたため、学生たちが逃げるシーンにて。
チーム・ブルーの「ミシェル・ケイ」が躓いて足を怪我するのだが、誰一人として助けようとせずに走り去ってしまう。
これら2つはとても印象的なシーンだった。
畢竟、人は他人のことなんてどうでもよくて、自分のことしか考えてない。
そういう「人間ってこうだよね」という残忍な事実を生々しく描いている。
また、個々のキャラクターにスポットを当てて見てみると、もっと生々しく、ネガティブで繊細な人間ドラマが広がっていた。
第18話、調子に乗りすぎたこずえが女子3人に連れて行かれるシーン。
ネット上では「こずえ事件」と称されている一連の展開の始まりだ。
こずえは必死にレイコへと助けを求めるが、レイコは自分も巻き込まれるのが怖くて助けられなかった。こずえは痛々しい暴行を受ける。
こずえの恋人であるイクミは「なぜ助けられなかった!?」とレイコを責め立てる。レイコは「これ以上目立つと虐められる、と忠告した」と弁明するが、それも虚しくイクミの怒りを全面に浴びる。
レイコも、イクミも、自分のフィールドを守ることで精一杯なのだ。感情が剥き出しになり、冷静さを保てなくなってしまっていた。
この辺りの展開が最も重々しかった。
人は滅多に死なないし、血もあまり出ない。それなのに、ここまでのドロドロとした”鬱”展開を生み出せるとは...
そして個人的にベスト鬱回だと思っている、第21話。そのラストシーン。
親友のこずえが暴行を浴び、イクミが圧政を指導し、相葉兄弟の関係は相変わらず悪いままで、こずえからは性格や人間性を否定されて...
極限まで追い込まれたあおいは「これ現実じゃないよね」などとのたまい、涙を流しながら幼馴染の昴治に縋りつき、必死に現実からの逃避を試みる。
縋りつかれた昴治も「これは現実だ」と泣きながら説得し、二人はどうする事もできずに抱擁を交わす。
あおい役の桑島さんの演技と、原画マンの作画演技が相まって、もうキツすぎて草。
精神崩壊一歩手前まで追い込まれた人間の姿がこれだよ。
人は辛いものを観たら、脳はバランスを取るために笑おうとするんだなと知った。その「草」だから。僕は笑って観ているしかなかった。
徐々に壊れていき、やがて爆発し、人間の本性が露呈する。
本作で描かれた極限状態における人間ドラマは、その過程と結果を抉るように描いていた。最高に鬱。
ファイナ・S・篠崎というヒロイン
第2話で逃げ遅れた少女として登場し、主人公・相葉昴治に助けられたのをきっかけにヒロインへと昇格したファイナ。
同じブリッジのオペレーター同士という共通点や「リヴァイアス」での生活を通して、昴治とファイナ、二人の距離が近づいていくドラマは一番惹かれるものがあった。
制服姿になったり、二人の物理的距離が著しく近づいたりするシーンに、可愛さを見出していた。
強いて挙げるならば、好きなキャラはこの子だと思っていた。
無限のリヴァイアス、残り3分の1まで来た。
— たゆすと@はてなブログ (@Heiho_tayutari) 2021年3月30日
おそらく今がこの作品で最も重々しい展開。辛いよ…
好きなキャラも一人も居ない。強いて挙げるならファイナ。
しかし、聖母アルネの教えに従う狂気にも等しい内面が見え隠れしだすと、昴治との距離も次第に開いていく。雲行きが怪しくなる。
そして、昴治との思想の違いやあおいの存在により、恋仲だった二人は破局へ。
そして極めつけは、ベスト鬱回と称した第21話。
昴治にフラれたファイナがあおいに嫉妬し、唇を噛むこの1カットには背筋が凍った。強烈に脳裏に焼きついている。
ようやっと正体を現すと、彼女はヤンデレの宗教女だったのだ。
アルネの教えを説いて信者(手駒)を増やし、「リヴァイアス」という社会に”宗教”を生み出し、元恋人や元ルームメイトを「過去を断ち切る」という名目で扼殺。
その過去を潔く切り捨てて未来をこじ開ける姿は、ただただ狂気に満ちていた。
ヒロインはみんな地雷女だと、やっと完璧に悟ることができた瞬間である。
あおいはおかしくなるし、こずえは承認欲求タラタラのぶりっ子。まだマシだと思っていたユイリィも、ブルーを好きになる時点でオトコを見る目が無いし...
第24話では、昴治が弟・祐希に銃で右手を撃たれて血を流すシーンにて、ファイナはこれを「過去を断ち切るチャンス」だとして扼殺を図った。
ヒロインがしちゃいけない顔と行動だよ!
第25話の艦内に救助がくる直前にも、「昴治は私の過去の存在」だとしてイクミに殺害を促した。
昴治を締め付けるシーンは、決して自分の胸元の山脈を押し付けているわけではない。
こうして、強いて好きなキャラクターを挙げるならファイナだと思っていたのに、それも終盤には裏切られて...
好きになれるキャラクターは一人も居なかった。
ただ、”傍観者”として遠い場所から冷めた目で観ることができたので、あまり不快になることはなかった。
主人公・相葉昴治と物語の結末
好きなキャラが誰一人居ないとはいえ、最終的に一番好感が持てたキャラクターは主人公・相葉昴治だった。
彼は”最弱主人公”などとネット上では揶揄されているが、僕はそうは思えない。
たしかに大人しい性格で弱々しい身体だが、冷静な判断力と協調性があり、周囲との調和を取るのことに長けている。
にも拘わらず、しっかりとした自分の思いや考えがあり、常にそれを貫き通しながら行動に移している。
「いま自分にできることを」
「過去は捨てられない。過去があるから、今の俺がある。」
「色んな人の気持ちを考えなきゃいけないし、仕方ないこともある」
「俺は笑いたいんだ」
本作で良いなと思えたセリフも、全部主人公のものだった。
2つ目は狂気的なファイナに向けたセリフで、3つ目は民主主義の本質を吐いたセリフ。
4つ目は彼が「リヴァイアス」で弟に向けて最後に提示した意見であり、本作の結末そのものだ。
生きている未来を、笑っていられる明日を彼は望んだ。
そして最終回で描かれた物語の終幕は、とても前向きで明るい未来であり、「もう一度リヴァイアスに乗る」という彼らの答えだった。
ちゃんと未来と回答を提示してくれたのだ。納得がいくスッキリとした終わり方は好感が持てる。
正直、観る前は「エヴァみたいなアニメだろ」と思っていた。
実際に観て、キャラデザや主人公の人物像などから『エヴァ』を意識している部分、似通っている部分もあった。
だがこのラストを観て、中身は『エヴァ』とは全く違うものだと確信ができた。
あえて近しい作品を挙げるなら『ぼくらの』や『彼方のアストラ』だろうか。
終わり良ければ作品の印象は良し。それがたとえ鬱アニメだったとしても...(嘘)
まとめ:良作のSFオリジナルアニメ
さすがは就職氷河期の世紀末に作られたアニメ。
アイキャッチは90年代の深夜バラエティー臭が強く、最初から最後まで雰囲気は暗くて、鬱屈とした展開が連続する。視聴が心底辛かった。
しかし、社会構造の勉強になり、事ある展開には考えさせられ、メッセージ性が強い。れっきとした良作のSFアニメである。
OP曲「dis」だって良かった。第22話はほとんど総集編じゃねぇかとか、文句もあるけれど。
今から観るという人はそれなりの覚悟を。僕はもう二度と観たくない。