異種族の風〇をレビューする某アニメに倣って、僕が(全話)視聴したアニメのレビューをネタバレ有りで書いていく「アニメレビュアーズ」。
今回は、『Re:ゼロから始める異世界生活』の原作者・長月達平先生と、アニメ版の脚本家・梅原英司氏が、原案から構成・脚本に至るまでを手掛けられたオリジナルアニメ...
『Vivy -Fluorite Eye's Song-(ヴィヴィ フローライトアイズソング)』のネタバレ感想・評価・レビューだ。
『Reゼロ』のアニメ1期が放送終了した2016年秋頃から、約4年間に渡って念入りに制作されて来たというが、その真髄やいかに。
- 『Vivy -Fluorite Eye's Song-』作品情報
- わずか1クールにして壮大な100年分の物語
- ウィットに富んで洗練されている脚本
- AIが人間と遜色ないほど発達した世界観
- 確約された映像美
- ヴィヴィが歌う音楽
- まとめ:AIが主役の古典的王道SF
『Vivy -Fluorite Eye's Song-』作品情報
放送時期 | 2021年4月-6月 |
話数 | 全13話 |
ジャンル | SF |
アニメーション制作 | WIT STUDIO |
『Vivy -Fluorite Eye's Song-』あらすじ・PV
“ニーアランド”、それは夢と希望と科学が混在したAI複合テーマパーク。
史上初の自律人型AIとして生み出され、施設のAIキャストとして活動するヴィヴィは日々、歌うためにステージに立ち続ける。しかし、その人気は今ひとつだった。
――「歌でみんなを幸せにすること」。
自らに与えられたその使命を果たすため、いつか心を込めた歌を歌い、園内にあるメインステージに立つことを目標に歌い続けるヴィヴィ。ある日、そんなヴィヴィの元に、マツモトと名乗るAIが現れる。
マツモトは自らを100年後の未来からきたAIと話し、その使命は「ヴィヴィと共に歴史を修正し、100年後に起こるAIと人間との戦争を止めること」だと明かす。
果たして、異なる使命を持つ2体のAIの出会いは、どんな未来を描き直すのか。
これは<私>が<私>を滅ぼす物語――
AIの『歌姫』ヴィヴィの、百年の旅が始まる。
『Vivy -Fluorite Eye's Song-』スタッフ
原作:Vivy Score
監督:エザキシンペイ
助監督:久保雄介
原案・シリーズ構成・脚本:長月達平、梅原英司
キャラクター原案:loundraw(FLAT STUDIO)
キャラクターデザイン:高橋裕一
サブキャラクターデザイン:三木俊明
メカデザイン:胡 拓磨
総作画監督:高橋裕一、胡 拓磨
美術監督:竹田悠介(Bamboo)
美術設定:金平和茂
色彩設計:辻󠄀田邦夫
3Dディレクター:堀江弘昌
撮影監督:野澤圭輔(グラフィニカ)
編集:齋藤朱里
音響監督:明田川仁
音楽:神前 暁(MONACA)
『Vivy -Fluorite Eye's Song-』キャスト(声優)
ヴィヴィ:種﨑敦美
マツモト:福山 潤
エステラ:日笠陽子
グレイス:明坂聡美
オフィーリア:日高里菜
『Vivy -Fluorite Eye's Song-』評価
評価項目 | 作画 | 演出 | 音楽 | 声優 | ストーリー | キャラ | 設定・世界観 | 雰囲気 | 面白さ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
点数 | 9 | 9 | 8 | 8 | 8 | 8 | 9 | 8 | 8 |
お気に入り度:★★★☆☆
オススメ度:★★★★☆
わずか1クールにして壮大な100年分の物語
本作は、主人公である歌姫・ディーバが100年前の過去へとタイムリープし、AIが人間を滅ぼす未来を変えるというお話。
そんな長大な物語が展開される作品なのに、設けられた尺はたったの1クール13話だ。
しかし、構成やシナリオが優秀であり、1クールで未来100年分の壮大なスケールを感じることができた。
2話の飛行機が爆発するシーンで「あ、このアニメは綺麗事で片付ける安易な作品では無いんだな」というのを強く感じた。
相川議員のバックボーンや救出後の動き、宇宙ホテル・サンライズ事件の真相がひと捻りあったのも、裏切られて良かった。
5~6話の「人間とAIの間に生まれる愛」というテーマはとても興味深く、人間とAIの対比の演出が光っていた。
あまり深くまでは掘り下げてくれなかったものの、一番好きなエピソードだった。
7~9話のオフィーリアの話も、「AIの自殺」というテーマはすごい良かったが、真実の種明かしが捻りなく、いまいち衝撃と新鮮味に欠ける内容だった。
6話のラストに衝撃を受けて記憶を失ったヴィヴィに、ディーバという新しいプロフェッショナルな人格が生まれて、それが最終的に消えて1つになる。そのように、ヴィヴィの内面に起伏を設けて物語を彩っていたが、これも正直意味が分からなかった...
なぜ今更AIと人間の死ごときで、記憶がぶっ飛ぶほどの衝撃を受け、内面が分裂したのだろうか。
楽しく視聴できたが、それだけが気掛かりである。
10~13話は、マツモト博士との邂逅がナチュラルで、すっと1話の100年後の世界に繋げたのが良い。
けれども、もう一度途中からタイムリープするという展開が中途半端で、最後の最後にひと捻り加えなくても…とは思った。
ここまで100年間の物語を全速力で駆け上がってきたのだから、このまま気持ちよくストレートに結末を迎えるのが最適解なのではと。
だが、制作陣は「そんな一筋縄で行くわけないだろ」という現実を伝えたかったのだろう。簡単に終わらせてくれない辺り、やはりタイムリープモノが得意な人が書いたお話だな…とつくづく感じる。
結末は”収まる所に収まった”という印象であり、想像の余地を残して消えるのは綺麗だった。
またスタッフクレジットにて、屍となったAIに反骨心を向ける男性と、それを止めるヴィヴィに助けられたおっさんが描かれていたが、これが本作の本当に描きたかった本質であろう。
人間と人間の歴史には、AIによって刻まれた傷が永遠に残り続ける...
物語は総じて、前半は1話単位の密度が非常に高く、疾走感もあって面白かった。
だが後半からは、密度が薄まり失速して行ったように感じる。
2話完結 ⇒ 3話完結 ⇒ 4話完結...と、1エピソードの尺が増すごとに冗長になるという感想だ。
ウィットに富んで洗練されている脚本
本作は有り体にいえば、既視感と退屈に囲まれた古典的な王道シナリオだ。
しかし、ヴィヴィとマツモトの掛け合いが面白く、古臭さや退屈さを感じさせない良いスパイスになっていた。
とくに、マツモトのセリフ回しがウィットに富んでいて愉快なのだ。その好例を挙げてみよう。
「あのですね。ジョークに真顔で返されるつらさって演算できます?」(2話より)
「いいですか、僕たちAIは一か八かではなく、1か0かで判断し、何事も合理的にこなさなくてはなりません」(2話より)
「飛べないキューブはただの立方体ですよ」(5話より)
…このように、自らがAIだと自覚した小粋なジョークを投げかけてくる。
まだぬいぐるみ姿だった頃、つまり1話の冒頭からマツモトはずっとこの調子であり、2話ではすでに確固たる脇役ポジを確立していた。
これは福山潤さんの素晴らしい早口AI演技のおかげも大きいが、脚本がとにかく洗練されているのを感じた。
AIが人間と遜色ないほど発達した世界観
本作に対する否定的な意見のなかに「AIが人間臭すぎて無理」みたいなものがある。
たしかに本作に登場するAIは人間臭い、というか人間らしい。
だが西暦2046年~2161年を舞台にした物語なので、僕は「AIが人間と遜色ないほど発達している世界」なのだと思って視聴していた。
そのパイオニアであるAIが、本作の主人公にして史上初の自律人型AI・ディーバであると。
物語の主人公という事で、種﨑さんの演技など多少は人間らしく誇張されている部分もあるだろうが、人間らしいAIに違和感はあまり感じなかった。
走り方やアクションなどの作画演技は人間ではなかったし。
また回を追うごとに、モブAIが徐々に機械らしさを失って行き、それに反比例してマツモトが完全体で無くなって行くなど、時間の経過が感じられたのが良かった。脚本や世界観の設計が細かい。
100年間にしては、人間の在り方や価値観などあまり変化(進化or退化)してない気もするが、それはこの100年間の凄まじい変化と比較してるのであって、江戸時代の100年間はそこまで変化がない。それに、現実世界の2046年から100年間がどうなるかも予想できない。
これは物語上の架空の世界であり、時間の経過が感じられるなどのある程度のリアリティは帯びていたし、ノイズや違和感を感じることはなかった。
確約された映像美
アニメーション制作が「WIT STUDIO」という時点で絶大なる安心感を抱いていたが、やはり映像は凄さまじい。
『進撃の巨人』や『甲鉄城のカバネリ』ほどでは無いが、期待通りだ。
けれども、期待を大幅に超越してきたシーンが1つだけある。
それは9話、ヴィヴィと垣谷のバトルアクションシーン。
また「WIT STUDIO」はえげつない映像を作りよって!!!
3回ほど巻き戻して観直したよw
ヴィヴィの走り方が機械のそれだったり、ピアノなどのオブジェクトを駆使した動きが散見されたりと、見応えしかないバトルアクションである。
2021年、一度は観ておきたいアニメ映像。
また、映像エフェクト(撮影処理)がたいへん素晴らしい仕事をしている。
上の画像のように、髪の艶や目の輝きに凝った派手な1カットが時折差し込まれると、目と心がグッと掴まれるのだ。
『進撃の巨人』のように動かして魅せるのではなく、静止画(止め画)で魅せるというアプローチも行っている。
なにも動かすのが全てではない、そう動かすのが全てみたいだった「WIT STUDIO」が言っているように思える。
ちなみに『鬼滅の刃』以降、このように派手な撮影処理を施す作品が増えたけど、トレンドなのかしら?
ヴィヴィが歌う音楽
ヴィヴィの使命は「歌でみんなを幸せにする」 ことであるように、大前提として主人公は歌姫だ。
ゆえに大事になって来るのは、そう―― 音楽。
音楽は、『ハルヒ』や『化物語』などで知られる神前 暁氏が担当されているだけあり、『Vivy』というキャラクターや世界を象徴していた。
個人的に一番好きな曲は、OP曲である「Sing My Pleasure」。2021年春クールで一番聴いたかも。
OP映像も結構気に入っている。
1分11秒辺りの、制服姿のヴィヴィが垣谷を蹴る…と思いきや、ヴィヴィの目元アップに切り替わるシーンが好き(伝われ)。カットの繋げ方が巧みだ。
OPと来て・・・他方、ドミノ倒しのEDについても特筆したい。
ドミノが倒れていく様は「歴史は全て繋がっている。過去の何かを変えれば、未来のどこかが変わる」という、タイムリープモノにおける普遍的なメッセージ性を感じる。
だからEDのラスト、最後の1つのドミノが落下するオチから「ヴィヴィが人間を救いながらAIを滅ぼしていき、最後の最後にヴィヴィが自殺。こうしてAIがこの世界から滅びる」という結末を考察していた。
キャッチコピーも「私(ヴィヴィ)が私(AI)を滅ぼす物語」だし...
だが実際は、人間とAIが共存共栄してヴィヴィも修理によって生存するという結末だった訳で、その考察は見事に当たらなかったw
(☟その考察ツイート)
#Vivy
— たゆすと@はてなブログ (@Heiho_tayutari) 2021年4月18日
キャッチコピーの「私が私を滅ぼす物語」。
つまり主人公が人間を救いながらAIを滅ぼして行き、最終的にAIである自分も死ぬという結末かな?
いや、100年後の人間とAIの戦争を阻止し、両者が共存していく未来を見せるのか?
オリジナルアニメは今後の展開やラストを考えるのが楽しい。
考察に話がズレたけど...誰でも思いつきそうで案外思いつかない、オシャレなEDだと思う。あえてインストにしたのが余韻を残している。
また、インストのED曲に歌詞を加えてアレンジした「Fluorite Eye's Song」という曲が最終回で流れたが、この曲もAmazon Musicのマイライブラリに登録した。スペシャル感がある終わりの歌。
まとめ:AIが主役の古典的王道SF
放送前は、映像はド安定、音楽も大丈夫、あとは脚本に賭かっている…と心配していたが、全てが終わってみれば、脚本が一番頑張っていて素晴らしかった。
本作が放送された2021年春クールは、『ひげ〇ろ』や『お〇まけ』などの低品質な作品が目立ち、それらに比較して過大評価を受けている気がする(過去を振り返れば、もっと面白いSF作品は沢山ある)。
が、2021年春クールではトップレベルの作品だったことは間違いないだろう。