異種族の風俗をファ〇通レビューする某アニメに倣って、僕が(全話)視聴したアニメをネタバレ有りでレビューしていく「アニメレビュアーズ」。
今回は『波よ聞いてくれ』の感想・評価・レビューだ。
原作は『無限の住人』の作者による新連載漫画で、「マンガ大賞」に2回もノミネートされている優秀な作品。
僕はリアルタイムで視聴し、その後気に入って原作コミックを全部揃えた。
そして、最新巻まで読み終えてまたアニメを観返したくなったので、つい先日2周目を視聴。
この機会にレビュー記事も書いてしまおうという事で、この放送から1年半後という謎タイミングでの投稿になった訳である。
基本的に1周目で感じた感想をベースにしつつ、原作を読んだり2周目を視聴したりして改めて気付いたことを付け足している。
- 『波よ聞いてくれ』作品情報
- 無軌道すぎるストーリーと読めないオチ
- アニメならではの構成術
- 止まらないキャラクターのセリフ
- 主演・杉山里穂さんがハマり役すぎて震える
- リアルな女性を描いている
- 作品にジャストフィットなOP・ED
- 気になる点・擁護できない点
- まとめ:波よ聞いてくれを観てくれ
『波よ聞いてくれ』作品情報
放送時期 | 2020年4月-6月 |
話数 | 全12話 |
ジャンル | コメディ/お仕事 |
アニメーション制作 | サンライズ |
『波よ聞いてくれ』あらすじ・PV
「いやあ~~~~ッ、25過ぎてから男と別れるってキツいですね!」
札幌在住、スープカレー屋で働く鼓田ミナレは、酒場で知り合った地元FM局のディレクター・麻藤兼嗣に失恋トークを炸裂させていた。
翌日、いつものように仕事をしていると、店内でかけていたラジオから元カレを罵倒するミナレの声が……!
麻藤はミナレの愚痴を密録し、生放送で流していたのだ。激昂してラジオ局へ乗り込むミナレ。しかし、麻藤は悪びれもせずに告げる。
「お姐さん、止めるからにはアンタが間を持たせるんだぜ?」
ミナレは全力の弁解トークをアドリブで披露する羽目に。この放送は反響を呼び、やがて麻藤からラジオパーソナリティにスカウトされる。
「お前、冠番組を持ってみる気ないか?」
タイトルは『波よ聞いてくれ』。北海道の深夜3時半、そしてミナレは覚醒するッ!
『波よ聞いてくれ』スタッフ
原作:沙村広明(講談社「アフタヌーン」連載)
監督:南川達馬
シリーズ構成:米村正二
キャラクターデザイン:横田拓己
音響監督:高橋 剛
音楽:岩﨑元是
色彩設計:野地弘納
美術監督:坂上裕文(ととにゃん)
撮影監督:小池真由子
編集:木村祥明
『波よ聞いてくれ』キャスト(声優)
鼓田ミナレ:杉山里穂
麻藤兼嗣:藤 真秀
南波瑞穂:石見舞菜香
久連木克三:山路和弘
茅代まどか:大原さやか
甲本龍丞:石川界人
中原忠也:矢野正明
城華マキエ:能登麻美子
宝田嘉樹:島田 敏
須賀光雄:浪川大輔
沖 進次:内山昂輝
『波よ聞いてくれ』評価
評価項目 | 作画 | 演出 | 音楽 | 声優 | ストーリー | キャラ | 設定・世界観 | 雰囲気 | 面白さ |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
点数 | 9 | 9 | 9 | 10 | 9 | 8 | 8 | 8 | 9 |
お気に入り度:★★★★★
オススメ度:★★★★☆
無軌道すぎるストーリーと読めないオチ
本作は公式サイトなどで「予測不能な無軌道ストーリー」と謳っているが、
まさにストーリー展開が無軌道すぎて、最後には誰の予想もつかない”オチ”が待っている。
最も衝撃的で、痛快で、予想できなくて、面白かったのが第6~7話。
主人公・ミナレのラジオ番組にお便りを送ってきた、ミナレの住むアパート階下の住人・沖さんのエピソードである。
山で恋人がいなくなった沖さんの部屋は、大量の赤い液体が染みわたっており、それを沖さんは恋人の怨霊の仕業ではないかと疑い、大量のお札を貼ってお経をあげるカオスな状況。
現実的に考えるミナレは部屋の天井裏へと潜入し、赤い液体の出所、合わせて小柄な女性1人分くらいになりそうなハエが無数にたかる怪しい袋を発見する。
現代劇から逸脱し、オカルト臭の立ち込めるサスペンスホラーに切り替わるのかな?…と思いきや。
最後に待っていたのは、「階上に住むミナレが床下収納に放置していた”マトン”が怪しい袋の正体だった」というまさかすぎるオチ、とんでもない真実。
死人は誰も出ないし、やっぱりミナレのせいじゃねぇか、ガッハッハ!...と。こんなオチを誰が読めたか?
また途中の展開にも、ミナレと瑞穂が巫女コスプレで入って来たり、沖さんがはじめの一歩で見たことある構えをしたり、沖さんと恋人の回想シーンが吐き気をもよおす恋愛脳に溢れていたりと、笑いどころが随所にある。
青姦するために遭難覚悟で山に登り、案の定遭難するのは流石に笑う。
アニメならではの構成術
原作はさらにストーリーラインが無軌道というか複雑で、物語を「○○編」と区切ることが難しい。
だがアニメに落とし込むにあたって、ストーリーラインをメインの主人公・ミナレを中心としたものに絞り込み、
サブキャラクターの―—たとえば城華マキエのストーリーなんかは大幅に削ぎ落してアレンジしている。
構成・脚本がかなり練られているのだ。
しかしこれは原作を読まないと分からない事だから、アニメの評価に含めることはできない。
ので、アニメを観ただけで読み取れる範囲で、構成・脚本の素晴らしいと感じられる点を挙げていきたい。
強烈なインパクトと掴みがある第1話
第1話の冒頭から、ミナレが「ヒグマと戦いながらラジオ番組をやる体でリスナーのお便りを読む」さまをいきなり見せられる。
時系列的には、第8話の中盤でようやく繋がる所のエピソードだ。
初見では、ヒグマの代わりに”意味不明”の四字熟語が襲いかかるのだが、ミナレの膨大なセリフ量にも圧倒され、強烈なインパクトと掴みがある。
もし、本来の物語のスタートである第1話のBパート、泥酔したミナレが放送業界のおっさんに失恋の愚痴を吐くシーンをアニメの第1話冒頭に持ってくると、少々インパクトと掴みに欠ける。
だからこれは上手い構成だなと。
また、ミナレとヒグマが戦う”想像上のシーン”をきちんと描くのも、漫画やアニメならではの表現だ。
「この作品、ドラマや実写映画でも良かったんじゃないか?」とは視聴者に言わせない演出を多数盛り込んでいる。
これは第5話の放送事故を装った架空実況も、第11話の光雄を埋葬するラジオドラマも然りだ。
タイトル回収が死ぬほどカッコイイ第4話
兄がボイジャーの店長と交通事故を起こしてしまった。そのお詫びとしてボイジャーで無報酬で働く謎の美女・マキエが、自分で新メニューを発案したりと徐々に店を乗っ取っていく。
ある日の夜、訳アリそうなマキエに対し、ミナレに好きだと言っていたボイジャーの同僚・忠也が「どうしても帰りたくないならさ...ウチに来れば?」などと言い放つ。
それを影から見てしまったミナレ。
いつもとは違う曲が流れる特殊EDで、トレンディドラマのようなドロドロとした恋愛だとか不穏な空気が充満するw
そして麻藤からミナレに「ラジオ番組の準備が整った」と連絡が。
麻藤「番組名は『波よ聞いてくれ』」
タイトル回収キマったーーー!!!!
さらには、不安を煽って次回への引きまで作ってある。
まあマキエは店を乗っ取るつもりはさらさら無いし、マキエと中也もそういった関係では全然無かったのだが...
ただの不安損だったのだけれど、第5話からも次々と別のアプローチから面白い展開が荒波のように押し寄せてくるので、それに落胆する暇などなかった。
この時代だからこそ、ラジオの存在意義を見せる第12話(最終回)
本作を語るうえで外せないのが最終回、ミナレのラジオ番組の放送中に突如、北海道全域を地震と停電が襲うエピソード。
原作でも地震の展開はあるが、アニメ放送当時の原作最新巻に描かれている内容であり、アニメの時系列的にはもっと先のお話。
だから、原作から「地震」の題材だけを拝借し、中身は完全なるアニメオリジナルで丸々1話仕上げているのだが、非常によく纏まっている。
地震が発生する展開が、現実と同様に、なんの前ブレもなく唐突に起こるのがグッド。
ミキサーの甲本というキャラクターを「リアルな風の音を録る」という名目で山に移動させ、彼を映す形で、道内が停電していくさまを見せる演出は巧みだ。
そして、ミナレと交代した茅代まどかが「見上げてごらん夜の星を/坂本九」の”原曲”をかける。
日本人の誰もが知る国民曲であり、災害時に聴くと落ち着く音楽の象徴でもある。選曲センスが本当に素晴らしい。
ミナレの親父がしっかり娘のラジオを応援していたり、首をやられた光雄が星空を眺めるカットを入れたり、ボイジャーで炊き出しを行うマキエを見つめるマキエ兄が映されたり。
…と、歌に乗せながら各キャラクターのその後を描き、未来の展開を暗示しているのも細かい。セイコーマートがコンビニ最強であることを描いていたのも。
最終回が一番盛り上がり(地面も盛り上がり)、ラジオの良さや必要性を見せてくる。
テレビやインターネットにラジオが唯一勝っている部分は、地域との密着性とミクロに報道できること、それにより災害時に強いことなのだから。
緊急時の臨機応変な対応で、ミナレのラジオDJとしてのスキルアップと覚悟も描いた。
文句の付けようがない最高の最終回である。
止まらないキャラクターのセリフ
本作は基本的に”会話劇”で、キャラクター同士の会話を中心に物語が進んでいくのだが、
小気味よく刻んでいくような会話のテンポ感が抜群であり、ワードセンスやギャグセンスがキレッキレで、めちゃくちゃ惹き込まれる。
しかも、細かい”映画ネタ”や”北海道ネタ”まで会話の端々に入れてくるので、ユーモアにも長けている。
- ふわふわし過ぎ!“星乃珈琲店”のスフレドリアかよ!
- お前にとって世の中は“チュッパチャプス”かなんかなのか?なめ過ぎだろベロベロと
- ”スープカレー”のようにサラッサラな関係で居たいのよ
- “マトリックス”で目覚めたキアヌ・リーブスみたいな濃い演技はそのへんにして、さっさと出てってくれませんかね?
...など。例えが分かりにくいようで分かりやすいw
ちなみに個人的に最も印象に残っているセリフは、シセル光明の「誰かを笑いものにするのではなく、自分が恥かいて起こる笑いが一番尊い」。
「人に笑われる人間になりさない」という意味を込めらえて名付けられた主人公・ミナレにも通じてくる”名言”だと思う。
また、常にキャラクターの誰かが喋っており、まさにラジオのような状況が続く。
目を瞑っていても面白い。こんなアニメが未だかつてあっただろうか?
主演・杉山里穂さんがハマり役すぎて震える
キャストがみんなハマり役すぎる。
なかでも主人公・鼓田ミナレ役の杉山里穂さんが凄い。
声質はピッタリで、演技は申し分なしに上手く、早口の長セリフは噛まずにハキハキと言えている。
しかも声質に関しては、アニメ化を想定してない原作の連載当初に
「音域が高く、人を安心させず、アジテーターじみた傲慢な響きがある。それでいて不快感はなく、好きな女芸人のつぎの発声を待つ心境に近い」
というほぼ指定のようなものが書かれている(アニメでも麻藤がこのセリフを言っている)。それで、その指定通りの声。
さらには、鼓田ミナレと同じく北海道出身で、放送当時は同い年という...
杉山里穂さんは鼓田ミナレを演じるために声優になったのでは?...としか思えない。これで新人声優ってま?
また、茅代まどかに関しても原作で
「呼吸の深さからくるヴィブラートがあり揺らぎがある・・・理想的なリアジュリング・ウィスパー」
という声質の指定があったが、こちらも大原さやかさんのキャスティングで大正解である。
ほかにも、麻藤は胡散臭い業界人声だし、久連子は人生酸いも甘いも経験したうだつの上がらない枯れ声だし、ボイジャーの店長はザ・ゲイだし、
瑞穂は純粋無垢な処女ボイスだし、マキエは作中最強の剣客―—ではなく、完全に自分がまだ無い世間知らずの儚げな女性だし。
リアルな女性を描いている
そんな素晴らしいキャスティングと声優さんの演技が相まって、キャラクターはとてもリアルに描かれている。
とくに「女性」に関しては、ここまでリアルに描けるとは…と感心した。
本当に「鼓田ミナレ」というアラサー女性が北海道に実在するんじゃないか?...と思うほど。
第9話の元カレ・光雄とのエピソードとか、ミナレは完全に”オンナ”になってたんだもん...甘えてくるオトコにめっぽう弱い、ヒモを育ててしまう系女子。
しかしながら、ゴミ箱からピーマンの種が付いたフリーペーパーを見つけ、ジャーマン・スープレックスで光雄を仕留めるオチはすこぶるカッコよかったw
これを描いた人が中年のおじさんで、しかも『無限の住人』を描いた漫画家ってマジ!?
作品にジャストフィットなOP・ED
オープニング
本作のオープニングは、まず楽曲「aranami/tacica」がめちゃくちゃ良い。
とくに歌詞が現実味を帯びていて、作品にもとても合っていて、じんと心に深く沁みわたるのだ。
計画通り計算通りを教え込まれていっぱいの頭 でも外側の世界では君を守ってくれはしないから
第一に注目したいのがBメロの歌詞。
上手いこと計画的に生きられない。そんなミナレのような人生を表してるかのような詞だ。
今日より明日がどうとか言ってるうちに今日は去って
サビの歌詞にして、個人的に一番のお気に入りフレーズ。
僕の毎日はこれだよw
荒波に毎日を非日常へ流さないで
電波の”波”にかけた『波よ聞いてくれ』のタイトルにかけた、「荒波」という単語。
非日常であるラジオ業界の荒波に流されていくミナレの姿を連想させる。
この街に似合う喜怒哀楽を探し出す
このフレーズは、地方局の”ラジオ”そのものである。
映像も楽曲に当てこんでいて素晴らしい。
終盤、闇に包まれた北海道の上空で、ミナレが声を発して道中に明かりが灯るシーンは、最終回の暗示だろう。
最後に登場人物がみな集まるのも良い。
エンディング
エンディングは、余韻に浸らせてくれるピアノメインで、ドラマでかかってもおかしくはないようなオシャンティーな楽曲。
それも相まって、”女性のカッコよさ”を魅せつけるものに仕上がっている。
一方で、おまけ程度で映される男性陣は渋カッコイイw
ラストカットのミナレは、どこか『GTO』後半クールOPの冬月先生っぽい。光の処理とか完全に...
気になる点・擁護できない点
アニメらしさ全開のクルマの挙動
ここまで散々肯定的なレビューを書いてきたが、気になった点が無いわけではない。
気になったのは、ミナレなどの登場人物が乗るクルマが『頭文字D』みたいな走りをしていた点。
なんで北海道の公道を猛スピードで走り、交差点でドリフトをキメてるんだよw
完璧に道路交通法を違反しているし、鉄塊が宙を飛んだクルマの初登場シーンからリアリティが皆無。
本作はたしかにフィクションらしい展開はありながらも、現実で起こりそうな範囲でまとめたリアリティのあるドラマに仕上がっている。
だから、フィクションらしさ(アニメっぽさ)全開のクルマの挙動には違和感しかなかった。
ただ最終回の地震で、信号機が壊れた夜道の交差点でクルマがパッシングしていたのはリアリティがあったし、とても細かい演出だと思った。
萌えアニメばかり観ているオタク向けではありません
擁護できないのは、何気ない会話が伏線だったりとあちこちに要素が散りばめられているため、少々内容が理解しがたい作りになっている点。
サブカルにある程度詳しい、もしくはある程度年齢を重ねてないと”分からない”ネタもあるので、アニメしか興味ない学生アニオタへのウケは良くないはず。
キャラクターデザインもオタクウケしそうな”萌え”とは無縁で、どちらかと言うとドラマを観ているような感覚に近い。
それでもアニメとしての突き抜けた面白さがあり、アニメ好きなら誰でもこの面白さを分かってくれると思うが。
あと、主人公を好きになれるか(受け入れられるか)どうかで、作品自体の評価も変わって来そうだ。
こういう少々言葉遣いが汚くて暴力的な女性が生理的に受け付けられない人も居るだろう。
僕は好きになれたから、この通り概ね高評価である。
まとめ:波よ聞いてくれを観てくれ
本作は、音声のみのマスメディアである「ラジオ」をテーマにした作品なだけあって、声優・音楽・音響などの「音」にきちんとこだわっている作品である。
それでいて、エンターテインメント性に抜きんでた、単純に”娯楽”として面白いアニメだ。似たような作品はないと思う。
おそらくメインターゲットは”大人(というかおっさん)”だろうし、芸能・テレビ・映画・ラジオなどのサブカルチャーへの造詣が深いとなお面白いに違いない。
だが、普通にアニメが好きな人でも面白いと思えるはずだ。ラジオがテーマだから渋そう、マイノリティだ...そんなものは先入観だ。
僕は、このアニメの円盤が上下2巻構成のBOXだというのに、197枚しか売れてないことが信じられない。
えっ?そういうお前は買ったのかって!? ががが、学生ではアニメの円盤という高価なものなんて買えないのよ...(震え声)